40th - 44th par in chap 4

[4-40]

エネルギーの形態は様々に違った方法で記述される。音のエネルギーは主に分子が規則的に行ったり来たりする運動である。熱のエネルギーは分子の乱雑な運動である。重力のエネルギーは互いに引き合う物体の間の空間に存在する。力学的なひずみに蓄えられたエネルギーには互いに引き合う電荷の間の空間が関係している。様々なエネルギーの形態は非常に異なって見えるが、それぞれのエネルギーは測定可能であり、ある形態のエネルギーがどれくらい他の形態になるかという経過を追うことができる。ある場所や形態にあったエネルギーが減っていたら、ほかの場所や形態のエネルギーは等しい量だけ増えている。だから、ある系のエネルギーが境界を越えて漏れこんだり漏れ出たりしないなら、系にどんな緩やかな変化や急激な変化が起きていても、その系の中にあるすべての形態の合計エネルギーは変化しない。

[4-41]

しかし、エネルギーは系の境界を越えて漏れる傾向がある。特に、エネルギーを変換すると、普通はエネルギーの一部は熱になり、放射や伝導によって外に漏れてゆく。これはエンジンや、導線や、熱水を溜めたタンクや、人間の体や、ステレオなどで起こっていることである。さらに、熱が伝導や放射で液体に伝わると流れが起こり、通常は熱の移動が促進される。熱を伝導しにくかったり放射しにくかったりする物質を使えば熱の損失を減らすことはできるが、完全になくすことはできない。

[4-42]

したがって、変換の際に使用可能なエネルギーの総量はほとんどいつも減少する。例えば、ガソリンの分子に蓄えられたエネルギーは、車が動いているときに使われるが、摩擦や排気によって車や道や空気を暖める。しかし、そのようにエネルギーが拡散するのを防いでも、エネルギーは均等に分配される傾向があり、そうなると我々が利用することはできない。これは、エネルギーの変換が可能なのは拡散しているときではなくひとつの場所に集まっているとき(例えば、落下する水や、高いエネルギーを持った燃料や食物の分子や、不安定な原子核や、非常に高温な太陽からの放射など)だけだからである。エネルギーが熱に変換され全体に拡散してしまうと、その熱エネルギーがさらに変換することは起こりにくい。

[4-43]

熱が常に高温な場所から低温な場所へと拡散しようとする理由は確率の問題である。物質の中の熱のエネルギーは、原子や分子が絶え間なく衝突する無秩序な運動からなる。物質の中のある領域にある非常に多くの数の原子や分子は、隣り合う領域の原子や分子と繰り返し乱雑に衝突するので、原子や分子の乱雑な運動エネルギーが2つの領域でほぼ同じになる場合は、どちらかの領域にエネルギーが集中する場合よりずっと多い。だから熱エネルギーが全体で無秩序に広がることのほうが、ある場所に熱エネルギーが秩序正しく集中することよりずっと起こりやすい。もっと一般的に、どんな原子や分子の相互作用があっても、統計的に起こりやすいのは初めの状態よりも無秩序な状態になる場合である。

[4-44]

しかし、ある系が秩序を増すことは、その系につながった別の系がより秩序を失う場合に限っては全く可能である。たとえば人間の組織の細胞は、複雑な分子や体の組織を作ったりして常に秩序を増やそうと忙しい。しかしこれは我々の周りの無秩序さをより増やす引き換えに起きている。たとえば食べた食物の分子構造を破壊したり、周囲の空間を温めたりしている。大事なのは、無秩序さの合計は常に増える傾向にあるということである。